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おひとりさまも注目 「遺言書を作るべき人」とは 

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 この世に生まれてきた以上、やがて来る死は避けられません。どんな人でも相続の問題から逃れることはできないのですから、全ての人が遺言書を作っておくに越したことはない、といえるかもしれません。しかし、そのような一般論ではなく、我々のような「相続のプロ」の視点から見たときには、明らかに遺言書を作る必要性が高い方も実際にいらっしゃいます。今回はこのような「遺言書を作っておくべき人」のお話をしましょう。

 

 

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全国の数値。日本公証人連合会のデータを基に編集部で作成

 遺言書に対する世間の関心は急速に高まっており、一般の方にも身近な存在になってきています。例えば日本公証人連合会が公表している「公正証書遺言の作成件数」では、最新データの2014年の公正証書遺言の作成件数は10万4490件であり、09年の7万7878件に比べ5年間で34%以上と、急増していることが分かります。これに自筆証書遺言の件数を加えれば、さらに多くの遺言書が毎年作られているといえます。

 法律では「15歳以上の意思能力のある人」なら、誰でも遺言書を作成できるとされています。そして実際に遺言を書かれている方はお金持ちとは限らず、財産が少ない方も大勢おられます。むしろ「もめごとが起こっているケースの約70%は、遺産規模が5000万円未満の場合である」という裁判所のデータを見ると、財産の額には関係なく遺言を書いておく必要があるといえそうです。

 

■遺言書が必要になる7つのパターン

 

 我々のような相続の専門家は、「遺言書の必要度合い」は財産額ではなく以下の4つのケースに該当するかどうかで判断します。すなわち法定相続分通りの相続を希望しない場合、もめるかもしれないという心配がある場合、特定の財産を特定の方に残す必要がある場合、相続人以外の個人や法人に遺産を遺したい場合――の4つです。より具体的にいえば、以下の7つの例のどれかに当てはまる方には、遺言書の作成を強くお勧めします。

 

(1)お子さんのいないご夫婦で、財産は長年連れ添った妻や夫に全て相続させたい方

 この場合、法定相続分に従えば妻や夫の他に、本人の兄弟姉妹へも全財産の4分の1が相続されることになります。それでは困る、という場合は、兄弟姉妹には遺留分(一定の相続人が一定の財産を取得できる権利)はありませんので、遺言を書いておけば財産を妻や夫に全て相続させることが可能になります。

 

(2)再婚されておられる方

 例えば、夫が亡くなって相続が起こった際に、先妻の子供たちと後妻の方との間でもめごとが起こることがあります。経験上、ここはトラブルが起こりやすいポイントでもあります。遺言書で回避したいものです。

 

(3)経営している事業をスムーズに次世代に引き継ぎたい方

 企業オーナーや農業の方は、円滑な事業承継をしていくために株式や農地が後継者に確実に引き継がれるようにしておきたいと考えるものでしょう。こうした場合も、遺言書の必要性は非常に高くなります。

 

(4)財産を相続人以外の人に残したい方や、法人などに寄付したい方

 例えば、自分たちの面倒をよくみてくれる息子のお嫁さん、昔恩を受けた知人、あるいは内縁関係にある人(戸籍上の配偶者でないと法定相続分はありません)などに財産を残したい場合には、遺言書が必要です。また、自分の死後に出身校や日本赤十字社などの法人に寄付したい場合にも、遺言書が必要となります。

(5)独身の方

 近年は一生独身で過ごされる方の割合が増えてきており、「おひとりさま」という言葉も見かけます。こうした方の相続人は兄弟姉妹やおい、めいとなるケースがほとんどで、相続人の数が多くなる傾向があります。また、日ごろの親戚付き合いにも濃淡があるため、「全ての相続人に法定相続通りの割合で遺産を残すのはシックリこない」と思われる方も大勢いらっしゃいます。このような方は遺言書で、自分の遺産を渡す相手を決めておかれることをお勧めします。

 

(6)子供が複数いるが、法定相続分とは異なる遺産配分を行いたい方

 例えば、先祖代々の財産を「長男に」受け継いでいってもらいたい方、子供たちの中でも経済力のある・なしに応じて遺産配分に差をつけたい方などです。このケースでは、「自分の子供たちはみな仲良くやっているので、遺言書まで書かなくても大丈夫」とお考えの方が多いのが特徴です。いわゆる「うちの子供たちに限って」というケースですね。ただ相続の現場では、相続発生時の子供たちの懐具合(経済状況)によって、「権利がある以上は少しでも多くもらいたい」という方や、「配偶者の考えに影響を受けて権利を主張する」方が少なからず見られます。いずれにせよ仲の良い兄弟が「争族」にならぬよう、遺言書の作成をお勧めします。

 

(7)法定相続人が誰もいない方

 この場合、ご本人が亡くなられると相続財産は行き先を失い、国のものとなってしまいます。それでもよいという場合は別ですが、このような事態を避け、例えばいとこや知人に財産を残したいということなら遺言書が必要になります。

 

■家族信託や遺言代用信託は本当に救世主か?

 

 遺言書に代わるものとして、最近は「家族信託」や「遺言代用信託」という仕組みも利用されてきています。これらは金融自由化の流れの中で、07年の信託法改正に伴って取り扱いが可能となり、近年、急速に広まってきているものです。

 これらの基本的な仕組みは以下の通りです。まず本人が保有している不動産や株式など特定の財産を、信託という「器」の中に入れ、委託者は本人、受託者を子供や身内の人が作る資産管理会社などとし、信託契約で「本人の死亡時に信託受益権を相続する人や法人」をあらかじめ決めておきます。これにより、本人の保有する特定の財産を特定の人や法人に、本人死亡時に相続承継させることが実質的に可能となるというものです。

 注目されているだけあって、家族信託や遺言代用信託の活用は、相続問題回避のための「新たな救世主」という見方をされることもあります。ただ、成年後見制度の弱点を補完するという観点からは有効といえても、もめない相続を実現するためには正直、これらの仕組みでは限界があります。やはり「遺言書に勝るものはない」のです。

 なぜなら、これらの仕組みは特定の財産「のみ」を対象としているために、本人の財産全体をカバーすることができず、結果として残された財産の分け方は遺産分割協議で決めざるを得なくなり、もめる要素が残ってしまうためです。

 さらに信託と違って遺言なら、「本人が、内容をいつでも自由に、比較的簡単に書き換えることが可能」です。財産の残し方について自分の思った通りに書けて、変更するのに誰の同意も必要ないという点も、遺言書の長所の一つといえるでしょう。

 

斧原元治(おのはら・もとはる) 三井住友信託銀行 大阪本店営業部 フェロー主管財務コンサルタント。1979年慶応義塾大学経済学部卒。住友信託銀行入社。渋谷支店、国際部、ロンドン支店、総合資金部などで融資、FX、外貨運用などに従事。プライベートバンキング部(本店)部長、すみしんウエルスパートナーズ専務取締役、大阪本店営業部 理事上級主席財務コンサルタントを歴任。16年4月より現職。

(下記サイトより)

http://style.nikkei.com/article/DGXMZO13999480T10C17A3000000

 

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